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障害者雇用率を国の省庁が42年間水増し?元公務員として考える裏側。

こんにちは、元公務員のシュンです!

いつも当ブログをご覧いただき感謝しております。ありがとうございます!

 

10近くの中央省庁において、障害者雇用率の水増しを行ってきたといったニュースが入ってきました。

しかも、雇用率制度が発足した1976年から、42年にもわたって水増しが常態化していたといった情報もあります。

 

以下では、

  • そもそも障害者雇用率制度って簡単に言うと何?
  • 具体的にどんな不正(水増し)を行っていたのか?
  • ぶっちゃけ、元公務員として今回の不正について思うこと。
  • 水増し分を除くと、国の障害者雇用率はどうなるの?
  • 雇用率を守らなかった場合の罰則はあるの?(民間はどれくらいの納付金を支払っているの?)

といった点を解説していきます。

 

特に今回のニュースは元公務員としては少し理解しがたい部分もあり、その辺の裏側についても語っていければと思っています。




障害者雇用率制度とは何か?

障害者雇用率制度とは、簡単に言えば、従業員のうち一定の割合は障害者(身体・知的・精神)を雇用しなさいという制度です。

※全員が身体障害者でもいいし、障害種別のバランスを取れというのは特に無い(実態として、公務員も企業も最も多く雇用しているのは身体障害者)

 

法で定められた障害者雇用率は以下です。

民間企業 2.2%
国・地方自治体 2.5%
都道府県等の教育委員会 2.4%

要は、1000人の企業なら22人障害者の方を雇いなさいということですね。

(実際には、「除外率」という制度があり、民間の場合実際にはもう少し少人数で済んだりする業種が多いのですが、その点は割愛します)

 

こちらの率は今年2018年の4月1日に改正されたばかりで、昨年度に比べて各0.2%ずつアップしています。

また、2021年4月までにはさらに0.1%ずつ引き上げることが決まっています。

 

守らない場合は、企業名が公表されたり、納付金が課せられたり、逆にたくさん障害者の方を雇用しているところには報奨金が支払われたりします。

(公的機関に罰則的なものはありませんが(率が公表されるくらい)、民間の模範となるべしということで高い率に設定されています→だからこそ、今回の水増しは非常に問題ですね)

 

そもそもそうやって何パーセント以上雇いなさいと数字化すること自体が差別っぽくないか?という声も聞こえて来そうですが、実際問題として障害者の就労割合が健常者のそれに比べて少ないのは事実であり、こういった制度によって何かしら手を打つべきだという考えの元でこの制度が実施されています。

 

フランスやドイツなども同様の雇用率制度を実施しており、日本はこれらをモデルにしています。

 

各省庁は具体的にどんな不正(水増し)を行っていたのか?

障害者手帳を持っていない算定対象外の方を多数カウント

中央省庁がどんな不正を行っていたのかという点について解説していきます。

 

各紙報道によれば、本来は雇用率に算定できない軽度の障害者の方を算定に含めることで雇用率を水増しをしていたとのことです。

 

厚労省は算定可能な障害者の範囲について、以下の通りHPに記載しています。

障害者雇用率制度の上では、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としています(短時間労働者は原則0.5人カウント)。

厚労省HPより引用

 

つまり、手帳を持っているというのが原則ということです。

しかし例外として、医師の診断書や意見書等で足りるケースがあります。

 

今回水増しを行っていた各省庁は、この例外のケースをかなり拡大解釈して算定に入れていたようです。

「視力が弱い」とか「健康診断で異常を指摘された」レベルの方を算定していたりしたようですね。




元公務員としては、裏に何か別の算定基準でもあったのではないか?と思ってしまう

公務員はとにかくマニュアル主義です。

市役所に行ってハンコが無いために申請書が受理されないためのクレームは日常茶飯事ですが、公務員は特にそういった細かなルールは厳密に守ります。(ルール自体がどうかという議論はありますが、一職員としては設定されたルールを守らないわけにもいきません)

 

そのため、今回の件に関して、客観的な判断材料(マニュアル等)を無視して、この方は軽度障害者としてカウントしちゃおうねという判断を担当裁量で行っていた(しかも複数省庁で)というのは、元公務員としては違和感を感じます。

 

現在、同制度を所管する厚労省は、判断するためのガイドラインをきちんと作っているのだから、勝手な判断をした各省庁がおかしいと言い、各省庁は、厚労省がきちんとした説明会を開くなりすべきだったと言うなど、責任のなすりつけ合いをしているようです。

 

ただしそもそもの話でいけば、ガイドラインの存在があるにもかかわらず、42年もの間、本来算定できないケースについて、複数の省庁の担当者が「勝手な裁量」で算定する判断していたというのが、公務員のマニュアル主義からして妙な話だというのが元公務員としての本音です。

 

これは完全に僕の想像ですが、制度発足当時、軽い方も算入に入れてもいいという内規(もしくは口頭伝達)的なものが存在していた可能性があるのではないか?というのを勘ぐってしまいます。

 

どちらにせよ、今回の経緯等については、厚労省が調査を行うようです。

おそらく各自治体も調査されることになるでしょう。(自治体の実態も非常に気になるところですね)

 

2018.8.29追記 その後明らかになってきた続報を元に、どうして公務員がこういった思考になるのかについて、元公務員の立場から分析しましたので、興味がありましたらこちらもどうぞ。

 

今回の不正で国の障害者雇用率が半分に?

直近(H29年)の障害者雇用率の状況は以下の通りです。

種別 H29雇用率
( )はH29の法定雇用率、【 】はH30制度改正後の雇用率
民間企業 1.97%(2.0%)【2.2%】
2.50%(2.3%)【2.5%】
都道府県 2.65%(2.3%)【2.5%】
市町村 2.44%(2.3%)【2.5%】
教育委員会 2.22%(2.2%)【2.4%】

(厚生労働省:「平成29年 障害者雇用状況の集計結果」より)

 

つまり、H29については民間は達成出来ていないものの、国を含む公的機関は全てクリアしている。

そして、H30には法定雇用率の引上げをしているため、民間(市町村と教育委員会も)は今後かなり雇用者を増やさないと厳しい。

 

一方で、国は例年通りならH30も雇用率はクリア出来るよという形になっています。

 

しかし、国は今回の水増し分を除外すると、これが半数を下回る可能性がある(つまり1.25%程度)といったことが報道されています。




民間は納付金を払っている?

障害者雇用率制度には以下のようなルールがあります。

  • 従業員45.5人以上の企業だけが雇用率を守る義務がある
  • 従業員101人以上の企業は、雇用率を守らなければ、納付金(不足1人当たり5万円。200人以下の場合はH31年度まで4万円。)を支払う必要がある
  • 45.5〜100人の企業は雇用率を守る義務はあるが、納付金を支払う必要はない(企業名の公表など行政指導の対象にはなる)
  • 101人以上の企業は、雇用率以上に障害者の方を雇用していれば調整金が支給される(超過1人当たり27,000円)
  • 100人以下の企業は、雇用率4%または6人を超える場合報奨金が支給される(超過1人当たり21,000円)

 

要は、雇用率は全企業ではなく従業員45.5人以上の企業のみに守る義務が課されており、さらに従業員が100人を超えたら雇用率を守らない場合不足1人につき4〜5万円のお金を払うことになるよということですね。

 

なお、厚労省の資料(平成29年 障害者雇用状況の集計結果)に基づき計算をすると、H29における民間企業の雇用率は1.97%であり、これをH29の法定雇用率である2.0%にするためには約8300人の雇用が不足していることになりますので、ざっくりですが、民間企業から合計で8300人×5万円=計4150万円程度のお金が国に納付されているということになります。

 

お金を払っているからどうこうというのは障害者雇用の本質ではないかもしれませんが、一方でこういう制度があるからこそ努力をしている民間も多いわけですから、民間としては納得いかないでしょうね。

 

民間には行政指導に入り、納付金まで取っておいて、「自分たちも間違ってました、でも何の罰則もありません」というのは通らないですよね。

 

おわりに

今回、「拘束時間の長さや国会対応など突発的な仕事が多いから(なかなか採用できなかった)」ということも各省庁から言われているようですが、所管の厚労省(=激務省庁)が規定を守っていたなら、それは言い訳としては苦しいですよね。

 

また、出来ないから不正をしてごまかすというのはまずいです。

それなら真っ向切って厚労省と議論すればよかったわけで。(まぁでも障害者行政はセンシティブなところがあるのでそうも言えないんでしょうが)

 

ただし、これは今回の件に限らず、行政のあらゆる施策面で言えることです。

→実際、出来なかったとか知らなかったというのを認めることをひどく嫌がる体質は、公務員時代に凄く感じました。

 

一事が万事です。

 

とりあえず、今回の件は徹底的にその経緯等を調査した上で、今後どうするのかをしっかり決断する必要があるでしょう。

 

今回も貴重なお時間の中で文章をご覧いただきまして、本当にありがとうございました!

 

>>続報(地方自治体でも続々不正が発覚)はこちらです。