公務員の仕事内容

市役所と県庁の仕事の違いとは?具体例とその裏側を元公務員が語ります。

こんにちは、元公務員のシュンです!

いつも当ブログをご覧いただき感謝しております。ありがとうございます!

 

さて今回は、LINE@を通じていただいたご相談ということで、市役所と県庁の仕事の違いをテーマに書いていきます。

 

元県庁職員としての経験や市役所職員の妻から聞いた話などをベースに本音の部分も含めて語ります!




国と県庁と市役所の仕事とは?

国と都道府県と市町村の仕事をざっくりと

国と県庁と市役所の仕事の違いについて、イメージしやすいように簡単に示してみます。

法案作成、各種事業の立案(→補助金を出して全国展開)
都道府県 国と市町村の調整、対民間企業窓口
市町村 対住民窓口

 

もちろん、都道府県も条例(要は地方版の法律です)を作ったり、独自施策を立案したり、市町村も同じように条例を作ったり・・・というのはあるのですが、まずはざっくりした全体像として捉えていただければと思います。

 

国とか市役所の仕事はイメージがつくけれど県庁って・・・?

国の仕事については、官僚たちが法案を作成したり、莫大な予算を組んで日本全国に関係する様々な施策を展開しているといったことのイメージがつく方も多いと思います。

 

また、市町村の仕事についても、住民課やこども課などに住民として直接かかわることも多いでしょうし、住民に対して色々なことをやっているんだろうなというのもイメージがつくと思います。

 

一方で、都道府県についてはなんだかよく分からんと思われる方も多いのではないでしょうか。

実際、以前対談をした市役所の方からも、県ってどんな仕事やってるんですか?と聞かれたくらいです。

 

都道府県の仕事が見えにくいため、今回の読者様のように、県庁と市役所の具体的な違いを知りたいという質問に繋がっているのだと思います。

 

そこで、以下では市役所と県庁の仕事を対比する形で解説をしていきます。

 

市役所と県庁の仕事の違い

法律から見る市役所と県庁の仕事の違い

都道府県と市町村の仕事について示した地方自治法を抜粋してみます。

地方自治法第2条2項

普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

地方自治法第2条3項

市町村は、基礎的な地方公共団体として、第五項において都道府県が処理するものとされているものを除き、一般的に、前項の事務を処理するものとする

地方自治法第2条5項

都道府県は、市町村を包括する広域の地方公共団体として、第二項の事務で、広域にわたるもの、市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものを処理するものとする。

 

要は、

  • 市町村をまたがるような案件は県でやってね(→県内各地に事業所を持つ法人への指導や、民間企業への対応など
  • 市町村との連絡調整も県でやってね(→国への補助金申請の市町村とりまとめや、国が全国的に広げようと考えている制度の実施を市町村に働きかけるなど)
  • 残りは全部市町村

ということが法律で定められているということになります。(法律なのでこれが原則中の原則です)

 

具体的な仕事の違い

県庁と市役所の具体的な仕事を分類してみると以下のようになります。

都道府県
  • 警察
  • 産業廃棄物(企業のゴミ)
  • 生活衛生(理美容、クリーニング、旅館などの営業許可・立入検査)
  • 食品(営業許可・立入検査)
  • 病院、薬局(開設許可、立入検査)
  • 中小企業対策(融資、補助金、相談など)
市町村
  • 消防
  • 一般廃棄物(家庭のゴミ)
  • 住民登録・戸籍
  • 高齢者福祉・障害者福祉・児童福祉
  • 保育所
  • 予防接種

 

分かりやすいように、県の役割(広域性、対民間事業者)と市の役割(対住民)が明確になるようなものを抜粋して整理しています。

 

もちろん、全てがこのように明確に分けられるわけではなく、

  • 生活保護は、町村については県が実施する、市は市が実施する
  • 道路は、県道は県が管轄し、市道は市が管轄する

といったように、やっている仕事の内容自体はほぼ同じようなものも結構あります。

 

ただ、大きなところとして言えるのは、県は対企業を相手にする仕事が多く、直接住民に接する機会は少ない、市は直接住民に接する仕事が多いということです。

これが原則です。




元県庁職員の筆者や市役所職員の妻が話す裏側

さて、ここまでは表面的な話をしてきましたが、ここからが本番です(笑)

もう少し踏み込んだ裏側のお話をしていきます。

 

市役所は住民からクレームを言われることが多い一方、県庁は誰の役に立ってるか分からない?

市役所は住民に近く、県は事業者に近いが住民からは遠いというのは既に書いた通りです。

 

その点を踏まえ、仕事の面白さをどこに見出すかと言えば、市なら住民から直接感謝されるとか、県なら企業と組んでスケールの大きな仕事ができるといったことが挙げられます。

 

しかし、もちろんそんな美しい話ばかりでなく現実は、、、というお話をしていきます。

 

まず市役所についてです。

 

直接住民の方と接して感謝されてやりがいを感じる!という一面は確かにあるのかもしれませんが、一方、感謝をされる機会というのはさほど多くないのが実態です。

 

妻も窓口経験がありますが、クレーマーの印象が圧倒的に強く、感謝された記憶などないと言っていました(笑)

 

これは自分たちに置き換えてみれば分かるのですが、我々も住民の一人ですが、市役所とかかわることってそんなにありませんよね?

 

せいぜい住民票、婚姻届、児童手当の手続きに行くくらいで、さっさと済ませて帰ろう(というかこの手続きネットでやらせてくれよ)といった感じの事務的なお付き合いをする方がほとんどだと思います。

 

そんな中、クレーマーたちは積極的に声をあげようとやってきます。

この税額の根拠どうなってるんだとか、職員の態度が悪いとか。

(→要は暇なんです)

 

税を払っている以上与えられるのが当然だとか、そもそも税金なんて払いたくないという人たちほど声が大きい傾向にありますので、こうした人たちを相手にするのは辛い部分があるということです。

 

次に県についてです。

 

県の場合はスケールの大きな仕事が出来るということを書きましたが、僕自身、スケールがデカくて面白いなーと感じたことはほとんどなく、むしろ住民と遠すぎて、一体この仕事誰の役に立ってんだろ?と思うことが多々ありました。(予算担当経験が多かったからかもしれません)

 

市役所のところで、対住民相手の仕事は大変な部分があると言いつつ、仕事の相手が見えづらいという点はモチベーション的に大きなデメリットでもあるということですね。

まさに無い物ねだりってやつです。

 

一方で、クレーマーに当たる経験は、間違いなく市町村に比べて少ないというのは言えます。

→僕自身、たまーに変な電話を受けることはありましたが、クレーマーとやり取りをしたことはほとんどありませんでした。

 

県庁職員は理屈っぽい?

メリットなのか分かりませんが、県の職員はなんだか優秀に見られるというのがあります。

 

以前、妻の所属する課が県から監査を受けた(つまり市の仕事を県がチェックする)際、やっぱり県の人って頭いいよねーという話が内部で繰り広げられていたという話を聞きました。

また、僕が銀行に出向していた時に、直属の上司が、各自治体を周ると県と市町村の職員の差を感じるということを言っていました。

 

要は、対住民最前線でスピード感を持って対応しなければならない市町村に比べ、県は理屈を考える時間が長いんです。

 

それは、マニュアル的な仕事をやる上では良い面もあるかもしれませんが、一方、組織内部で仕事を進める際に大変な場面も多くなります。

 

例えば、理詰めで叱られたり嫌味を言われたりする場面があったり、本来さっさとやらなければならない仕事が、色々と理屈をこねられてなかなか前に進まないようなケースも多いです。

(もちろんこれは市町村であっても当然ありますよ)

 

妻が、クレーマーから色々言われるよりも、理詰めで怒られるほうがよっぽど辛いということを言っていたのも印象的でしたね。

 

この辺の話は、公務員を目指す方には一つの参考になるかなと思います。

 

なお、市の職員より県の職員のほうが優れているなどとは1ミリも思っていませんし、事実そんなことは一切無いので、その点はご了承ください。

どの組織も優れている人は優れているし、そうでない人はそうでないというのが事実です。




非常に曖昧な県の市町村支援という立ち位置

県メインの話が続きますが、僕が県の出先機関(保健所)にいた時に感じたことを踏まえながら、県と市町村の仕事について考えることができるお話について書いてみます。

 

少子高齢化に伴い、様々な制度が作られたり、既存制度の大改革が行われたりしていますが、その実務は対住民窓口である市町村が担うケースが大半です。

そのため、とにかく色んな仕事が降りてきて余裕がないというのを、直接市役所職員の方から聞くことも多かったです。

 

それでは都道府県は何をするのかと言えば、制度にかかるお金を一部負担したり(国と県と市町村で1/3ずつとか)、実務面では「市町村支援」という役割が法令に定められることがよくあります。

 

一方、「市町村支援」みたいな曖昧な表現のものは基本的に実施されません。

(一部の熱意のある人が対応するだけ→それも上司がやる必要ないと言えば取り組むのは難しい)

 

つまり、色々な制度が作られてその仕事が市町村に流れていくものの、都道府県はせいぜいお金を負担したりとか、もしくはその制度の説明会を市町村向けにやったりするくらいで、最も疲弊する部分は市町村が対応せざるを得なくなっているといった状況があります。

 

本来、その「市町村支援」を最前線で担えるのは県の出先機関ということになりますが、「市町村支援」という曖昧な表現の隠れ蓑の中で出先は暇をしているというのが実態でした。(特に出先の行政職)

 

こうした県の立ち位置の微妙さは、自分自身が出先機関である保健所にいた時に本当に痛感しましたね。

シュン
シュン
お前は何してたんだと言われれば、1年目は熱い保健師さんの元で積極的に市町村の担当者と関わりながら、色々と模索をしていました。

しかし2~3年目は課が変わり、やる気の無い方と仕事を組んだこともあり、市町村支援という言葉など忘れてさっさと帰ってましたね。

まさに「環境が全て」だということはあの時身にしみて感じたことでもあります。

 

県と市町村が新規事業を行う際のリアル

最後に、県と市町村が共通で抱える仕事の問題点を挙げてみます。

 

既存の仕事、例えば、県なら病院や薬局の指導、企業への融資、県道整備、市なら住民登録、保育所の入所決定、予防接種、市道整備などは、年によってそこまで内容は変わりません。

 

一方、時代は常に前に進んでいるわけですから、ニーズに応じて色々と新たなことをやる必要が出てきます。

 

しかし、新規事業の立案に関しては、実質的にその多くを国にコントロールされており、自らの判断に基づく事業が実施されていないというのが県や市町村の実態です。

 

例えば、新規事業の立案時に役所の中でよく繰り広げられる流れを以下に示してみます。

 

各課
各課
うちの県(市)独自でこんな新規事業やりたいんです。

財政課
財政課
金ないよ、国が補助金出すやつにしろよ。

 

国

色んな新規事業の予算組みました。

やりたいところあれば手を上げてください。

補助金流します。

各課
各課

(本当にこの事業がうちの自治体にとって意味あるか深く考えられてないけど)すぐ手を上げなきゃ!

とにかく新規事業をやるチャンスはここしかない!

 

各課
各課
国から補助金貰える新規事業持ってきました!

財政課
財政課
全額国庫?ならしゃーないか。

でも来年以降は地方が半分お金出すとかないよな?、ブツブツ・・・

※財政課はこんな露骨に偉そうにしてませんが、しかし本質はこの通りです

 

ほとんどの自治体の財政は苦しいですから、新たなお金は出来るだけ費用負担したくないというのが本音(特に財政課の本音)です。

※そのため、東京都のように財政面で豊かな自治体はもっと攻めの姿勢を取っています

 

国ももちろんお金は無いのですが、国の場合は色々な政治事情のもと莫大な借金をして様々な予算が組まれます(→本来これが一番まずいんですが)。

 

必然的に、県や市町村は、国から補助金を貰える事業に手を挙げていくということになります。

 

しかし、こうした仕組みの元では、自分の県の特性だとか市町村の特性を考えて事業を実施するのではなく、国が作ったメニューの通り事業をやっていくという流れが固定化されていきます。

 

もちろん国も好き勝手に事業を作るのではなく、本格的な予算化をする前段階で、一部の都道府県とか市町村にお試しで事業をやってもらって効果検証をしてから全国に広げるケースが多いです。

 

しかし、実情は全ての自治体ごとに違いますし、そもそも自分たちの頭で考えていないものをやって本当に大きな効果など出るはずはありません。

 

それに、制度設計をしているのが国となれば、色々なところで守らなければならないルールが出るため、実施にあたっての自由度も低くなります。

 

こうした中で、国と地方の力の差は縮まることがなく、官僚たちにとってみれば、俺たちに頼ってばかりの地方になど任せていられるかということになるのですが、そもそもこういう仕組み(お金は国が握っていて、地方はそこにすがるしかない)自体が問題であり、ここが抜本的に変わらなければ、この上下の関係は永遠に変わりません。

(国と地方が対等の関係にあるなどというのは、所詮建前論です)

 

以下の図は総務省の資料です。

国民の税金のうち、収入ベースで見ると国税が6割・地方税が4割ですが、支出ベースでは国が4割、地方が6割と逆転します。

総務省「国・地方の税源配分について」より抜粋

 

この収支差は、図にある通り補助金で調整されているということになりますが、その手間も大きな無駄ですし、ここまで書いてきたように、自分たちの頭で考えて本当に必要なことを行うという自発性が失われるという大きなデメリットがあります。

(もちろん地域間の格差調整機能があるというメリットはありますが・・・→ただ、自分たちは苦しいんだとすがっているようなところは永遠に自立できません)

 

以上の点は、地方の仕事を考える上で最も重要なポイントです。

 

ただ、これが嫌なら自分が知事や市長になって全国を率いて大改革をするくらいしかありませんが・・・。

 

まとめ

  • 県庁の仕事=市町村をまたぐ広域的な仕事(民間企業への対応)や市町村の連絡調整
  • 市役所の仕事=県がやる仕事以外で住民に関わるもの全て
  • 市は住民に近く、直接ニーズに応えることによるやりがいを感じることができる反面、クレームを言われるケースのほうが多い
  • 県は民間企業と組んだスケールの大きな仕事に関われる反面、住民と遠すぎて誰の役に立っているのか分からないジレンマを感じることもある
  • 県も市も財政が厳しいため、新規事業を実施する際には、国の提案する事業メニューに乗っかり、補助金をもらって実施するケースが多く、自分たちで施策を考えるという地方自治の重要な要素が失われている面がある

以上です。

 

特に裏話の部分については、あんまりポジティブなお話ではなかったかもしれませんね。

 

もちろんその中で仕事に楽しみを見出していくことが重要なのですが、何事もメリットの裏側には必ずデメリットがあるという点を押さえておいていただくと良いのかなと思います。

 

今回も貴重なお時間の中で文章をご覧いただきまして、本当にありがとうございました!

 

>>公務員の仕事への適性(向き不向き)をまとめたこちらの記事もオススメです。

POSTED COMMENT

  1. 西内 秀雄 より:

    某県庁・政府・保守党から次期知事選の出馬を要請されています。ただ、あまりにも遣り甲斐の無い仕事で躊躇していましたが自分が先頭に立って、この生まれた県を変えて行きます。参考になりました。

    • シュン より:

      西内さま

      コメントありがとうございます。

      えー、、、知事選ですか・・・?
      いやはや恐縮すぎてなんとも言えないのですが(笑)、まさに公務員組織は首長で全て変わると思います。

      何かのご参考になりましたら幸いでございます。