書評

【書評】信長の原理(垣根涼介著)【働きアリの法則に戦いを挑む】

こんにちは、元公務員ブロガーのシュンです!

いつも当ブログをご覧いただき感謝しております。ありがとうございます!

 

今回は、2019年の直木賞候補にもなった、垣根涼介さんの小説「信長の原理」を読んだので概要をざっくり紹介します。

織田信長を描いた歴史小説ですが、ビジネスに応用できる本質的な話が散りばめられており、現代に生きるビジネスマンなら共感間違いなしの作品です。

僕が共感した文章もいくつか引用しましたので、本書の雰囲気を掴みたい方はぜひご覧ください。




本書の主要テーマとざっくりした概要【物語の根幹にかかわるネタバレなし】

本書の主要テーマ

本書は、織田信長の幼少期から本能寺の変で死ぬまでを描いた小説です。

もちろん、織田信長を描いた小説は腐る程あります。

 

本書の特徴は、信長がどういった「原理」で部下をコントロールし、それが最終的に本能寺の変にどのように影響を及ぼしたのかにスポットを当てているという点にあります。

 

信長の原理=「働きアリの法則」「パレートの法則」

本書で描かれる「信長の原理」とはビジネスで有名な「パレートの法則」のことです。

「働きアリの法則」とか言ったりもします。

 

要は、どんな組織であっても、

2割は優秀、6割は普通(日和見)、2割はダメ

になりますよ、という法則です。

 

信長が少年時代にアリの動きからこの法則を発見し、その後この法則に基づいて戦や家臣の采配などを行なっていく様子が描かれます。

 

本能寺の変はどうして起きた?

物語のクライマックスである本能寺の変に至る流れについても、この原理をベースに話が展開していきます。

 

つまり、

当時の司令官である5名の武将

→柴田勝家、明智光秀、羽柴秀吉、滝川一益、徳川家康(※家康は同盟国の大名ですが、実質的に信長の司令官的立ち位置でした)

 

このいずれもが働きアリの法則をくぐり抜けて生き残ってきた猛者たちですが、優秀な人たちであってもこの原理からは逃れられないということを信長は知っています。

(物語の途中で、2割の働きアリだけの組織を作っても、結局また2:6:2の割合に分かれてしまうことを実験して悟っている)

 

この5人のうち誰か1人は間違いなく脱落していく、もしくは自分を裏切る、と信長は悩み、策を巡らし・・・という流れで本能寺の変に至ります。

 

史実通り、最後はもちろん光秀が裏切るわけですが、そこに至るまでの信長の思考や光秀側の動きが非常に面白いです。(ネタバレになってしまうのでこの点は伏せます)

 

そして、死の間際に信長が悟ったこの原理の解とは???

ということでこれはやはり究極のネタバレになってしまうため、興味があればぜひ本書を読んでみてくださいというところにとどめておきます。




学びになる文章をいくつか紹介

次に、個人的に非常に学びになった文章をいくつか引用させていただきます。

見ていただければ分かる通り、現代の組織論やビジネスに応用できる非常に深いテーマが書かれています。

(なお、作者の垣根涼介さんはリクルート出身で、その後商社や旅行会社などを経験した後に作家になっています。ビジネス経験の豊富さに裏打ちされた文章だからこそ、非常に説得力に富んでいます)

トップの考え方

粘り強く色々な可能性や方向性を考えられるだけ揃えたうえで、その中から慎重に決断を下す。

一方で、大局的な戦略 — その戦自体をやるのかやらないのか、やるとしたらいつ始めるのかなど — は、誰にも相談せず、自分の中で長い時間をかけてじっくりと検討する。

それは大将が己の責任において一人で決断することだからだ。

信長の考え方について P118

戦略は自分一人で決断をするというトップの心構え的な話ですね。

 

なお、この後に続く文章では「やるか、やらないか」自体の判断を家臣に委ねようと右往左往する弟信勝を揶揄しています。

 

個人的には、日本の政治家たちに聞かせてやりたい・・・とか思ってしまうわけですが。

 

全ては確率

そもそも戦の勝敗に、絶対などない。

(中略)

ようは確率の問題なのだ。

信長 P175

まさに真理ですね。

 

ユニクロの柳井社長も「1勝9敗」という本を出していますが、ビジネスだろうが投資だろうが、どんな物事も全て確率論です。(流石に戦国時代は1勝9敗じゃまずいでしょうが笑)

最初から100%失敗しないようにやろうなんていうのは土台無理だという話ですね。(おそらくその場合何事もやらない→何もやらなければ緩やかに衰退していく)

 

やけに失敗を恐れる組織や上司に囲まれている人にとっては、非常に感じる部分があるのではないでしょうか。

 

※なお、確率論的な話に興味があれば、量子物理学の不確定性原理なんかも面白いですので興味があればぜひ調べてみてください。(アインシュタインが「神はサイコロを振らない」と反論したものとして有名(→反論は誤り))

 

流れに乗る

「されど、時勢という大波に逆らうことは、誰にも出来ぬ。呑み込まれ、溺れ死ぬだけでだ。ならば、波に乗るしかなかろう」

細川藤孝 P347

「流れ」はソフトバンクの孫社長も非常に重視しています。(「孫の二乗の法則」など)

 

今の時代であればインターネットを使う、今後は文章以上に写真や動画が主流になっていくなどですね。

一方で、これから日本で農業を始めますというのは完全に時勢に逆らっていることになります。(→メルカリライブなどを通して農産物を売るとか、ネット通販サイトを構築するとかを考えているなら別ですが)

 

「流れに乗る」というのは何をやるにおいても非常に重要な考え方の一つです。

 

投資の考え方

「主君からもらった加増分は、自からの懐に入れるためのものではない。それを原資として、さらに兵団を強くするために与えられているのだ。

その一時をいつの間にか置き忘れただけでも、信盛には、既に筆頭家老としての資格はない。」

明智光秀 P474

家老である佐久間信盛が信長に追放されたことに対し、明智光秀がこのように評します。

 

これは「投資」に関する考え方として、とても参考になります。

 

例えば、出来る人や稼いでいる人ほど、もらったお金を投資(自己投資や事業投資など)する傾向にあります。

 

ケチって流れを止めれば最早そこまで(成長しないから成果も出ない)という点をズバリ書いているのは非常に響きます。

 

おわりに【現代ビジネスに応用できる自己啓発書でもある】

本書の結論としては、どちらかと言えば効率化を求め続けることの警鐘的な意味合いが強いものだと思います。

 

一方、2:6:2の法則はビジネスにおいて間違いなく有用な法則です。

→組織論としてももちろんそうですし(2:6:2を受け入れた上でどういう組織を作るかなど)、僕のようなブロガーの場合、どの記事に人気があって、どこに力を注ぐべきかという効率性の見極めにおいて重要な役割を果たしています。

 

この法則の存在を踏まえた上で、果たして自分は日々の仕事のやり方をどうしていくべきかという実際的な問題から、人生においてどういった道を歩むべきかという長期的な問題についても非常に深い学びの機会になると思います。

 

なお、山田風太郎賞や直木賞候補になっていることからも分かる通り、何より純粋に物語として面白いです。

僕も一気に読んでしまいました。

(ちなみに垣根涼介さんの作品は「午前三時のルースター」「ワイルド・ソウル」も読みましたがどちらも本当に面白い。特に「ワイルド・ソウル」は夫婦揃って絶賛してました)

 

興味があればぜひご覧になってみてください。

今回も貴重なお時間の中で文章をご覧いただきまして、本当にありがとうございました!